NO-22

風はらむもの脱ぎすてし裸木(はだかぎ)のいさぎよきかな冬原に立つ

 星空に早朝(まだ暗いが…)の雪景色が見たくて二日間、寒い朝の道を歩いた。(「風邪に苦しめられたのに…」と妻に小言を言われた。)
 家屋の北側に面した道の歩道には雪が残っていたが、車道は融けている。この雪は、127日(土)の夜から28()にかけて降ったもので積雪は約15pあった。雪の多い年である。
 スーパーの北海屋まで歩いていくと、仙台卸売市場へ出発する大型トラックのエンジン音がする。妻に聞くと、副社長が仕入れの担当らしく、毎朝、卸売市場へ行って来るらしい。がっしりした体軀の人がトラックを運転して出てゆく。
 日中、北海屋の前を通ると、この副社長が店の外でくるくると働いている。みるからに勤勉で誠実な人という印象をうける。
 スーパーの北海屋は柴田町役場の近くに1店舗と、3つの店を経営している。3店で売り捌く野菜や肉類、鮮魚類の量は中途半端な量ではなかろう。
 遠方から品物を積んできたトラックが早朝の駐車場に止まっていることもある。周囲には同規模のスーパーが2店あり、約1km仙台寄りには大型店が出店した。今年10月には、近くに造成された住宅団地内にヨークベニマル系の大型店が進出してくる。誠実で勤勉な副社長の仕入れの技量も問われることになるのであろう。苦労の絶えない業界のようである。
 懐中電灯で足元を照らしながら東へ向かって行くと、読売新聞船岡専売所のあたりから星空が良く見えてくる。はるかはるか彼方の宇宙から届く星の光を東西南北に体を回転させて見る。田畑に目をやると雪である。
 街路灯に照らされている雪は、大きな円盤状の模様にも見える。
 街路灯はおもに道路の交差点に設置されているが、早朝の暗がりでも、ほぼ支障無く歩行できる間隔に設置してある。光源は蛍光灯と水銀灯だが、私の散策のコース内に23基オレンジ色の街路灯があった。早朝の雪景色でわかった。
 少し離れてみるとオレンジ色の円盤が若干宙に浮かんでいる感じがする。UFO(空飛ぶ円盤などの未確認飛行物体)みたいだ…と少年のように心をときめかせた。
 街路灯に照らされている柿の木が1本あった。裸木になって寒風に立っている様が凜としている。
 早朝の散策では、新聞配達の少年たちに何度も出会う。驚くことは、彼等が自転車のライトを灯さないで走り回っていることだ。ライトの無いほうが見通しがきくのかもしれないが、闇から突然自転車が飛び出てくるのだから、仰天してしまう。
 帰路は船岡中学校の北側の道路を西の蔵王山の方向に歩いてくる。そこで長身の新聞少年は(仙台大学の学生か?)と擦違う。彼は、遠方から「おはようございます」と声をかけてくる。
 この一言で私の心は清浄になり、すがすがしくなる。この少年に会えないときは、足取りを遅くして少年を待っている。
 自衛隊の正門前から旧国道4号へ通じる大通りの信号機のあたりまで来ると、異様な物音が聞こえはじめた。近づいてみると、自動車の古タイヤが野積みになっている畑があった。周囲をトタン板の柵で囲んである。そのトタン板が1枚捲くれ、風で音をたてていた。よく近所の人達から苦情が出ないものだとおもった。

暗緑の葉叢(はむら)にありし山茶花(さざんか)は斬首のごとく赫(あか)おとしたり


 わが家へ帰ると3本の山茶花が咲き盛かって私をむかえる。さざんかの花は椿の花のようにストンと地上に落下することは無い。咲き終わると茶色に変色し、いつまでも枝に付着している。みっともないので花が終ると剥ぎ取ってやる。
 22日の朝、一花が落ちた。罪作りな花が打ち首になったように…である。いや、とおもった。21日、私が勤務していた柴田町役場で上司だった先輩の訃音を聞いた。その因縁の花のようにおもった。
 そしてこの短歌は、

 因縁を断ち切るごとく一花落つ山茶花の赫いたく寂しく

となった。先輩は2年ほど前から私の菩提寺の妙高山大光寺の庶務係として檀徒のお世話をしていた。私も大光寺の地区役員なので、顔を合わせる機会が多かった。昨年の暮れの役員会を先輩が欠席した。そのときは方丈様から「体の調子が悪いので欠席させて下さい」と電話があったとの報告を聞いた。
 風邪でもひいたのだろうな…とおもっていたところへの訃音である。
酒を飲まない頑健な方だったが…。生命は、はかないものだと、つくづくおもってしまう。亨年71歳だった。
 深く哀悼の意をこめて合掌するしかない。



 三十一音の韻律の文学の魅力にはまって三年になる。平成11年上期の河北歌壇賞(河北新報社・佐藤通雅選)を受賞した。
 短歌を勉強すればするほど、類形的でまとまりすぎて新鮮味がなくなった。表現が古めかしくて色褪せてきた…などと言われるようになった。むずかしいものである。「歌は人である」と言われるが、色褪せた自分にどんな春の彩りをそえて旬の短歌を作ろうか…と考えている。
柴田町船岡在住・渡辺 信昭