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春雷に青き稜線ゆらぎたり面妖の雲蔵王になだる

 私の家の二階から望む蔵王山は切妻屋根のような形をしてゆるやかな裾野をひく。晴天には稜線を青く光らせる。高山の天候は不順で蔵王山に仁王のような雲がかかってくると春雷がとどろいた。それは春の躍動の音でもある。
 この町の東端を阿武隈川が流れている。その支流、蔵王山を水源にする白石川が町の中央を横切って阿武隈川に注ぐ。土手には染井吉野の古木が並木を作っている。川沿いの船岡城址(四保山)は伊達騒動の主役、原田甲斐宗輔の舘跡であり、原田家お取潰しの後は柴田外記が舘を築いた。この城址にも桜の古木があり、若木も植えられて春たけなわの四月中旬には全山が薄紅に染まる。
 第8回直木賞作家の大池唯雄先生(柴田町在住・昭和45年没)は「豊満な女性のようだ」と、この町の桜を称えた。わたしは、毎春さくらが散るころになると、花の情念が燃えたぎる渦のようなものを見る。

大樹なるさくらの下辺(したへ)薄紅の湿地帯あり女男(めお)そまりゆく

 おすすめの桜見物のコースだが、まず東北本線の船岡駅で下車、北の改札口を出ると、もう白石川の桜並木だ。上流への土手を1qばかり、ゆっくり歩く。樹齢約百年の大樹の下は桜のトンネルを潜ってゆくようで、花に酔う。艶やかな春の情緒に酔いしれてしまう。30分ぐらいの散策で船岡城址の下に着く。それから、桜満山の城址に行く。船岡平和観音が祀られている。山頂まで登ってほしい。山頂から蔵王山を望めば、もうあなたは春のとりこだ。空に遍満する春の光に、あなたは吸いこまれてしまう。


 三十一音の韻律の文学の魅力にはまって三年になる。平成11年上期の河北歌壇賞(河北新報社・佐藤通雅選)を受賞した。
 短歌を勉強すればするほど、類形的でまとまりすぎて新鮮味がなくなった。表現が古めかしくて色褪せてきた…などと言われるようになった。むずかしいものである。「歌は人である」と言われるが、色褪せた自分にどんな春の彩りをそえて旬の短歌を作ろうか…と考えている。

柴田町船岡在住・渡辺 信昭